PhDコース修了した日本人学生へのインタビュー(約5年間香港科技大学で過ごした感想・経験談)

香港科技大学でPhDコースを修了した日本人学生にインタビュー取材

2025年夏の頃、一人の香港科技大学でPhDコースを修了した日本人学生にインタビュー取材をしました。その学生は神戸大学出身で、2018年工学院のサマーキャンプ2019年工学院の研究インターンシップを経て、2020年に工学院のPhDコースに入学しました。2025年になって約5年間香港科技大学で過ごし、異文化の環境のなかで、VR研究で高評価のHonourable Mention Awardの受賞になった一方単位の取得に挫折もしたという、貴重な経験をしました。今回はインタビューを機にその詳細を聞かせていただきました。

インタビューの詳細

執行 健人→ K

香港科技大学工学院 日本人留学支援グループ→ G

G:執行さん、こんにちは。本日インタビュー取材をさせていただいて、ありがとうございます。留学を検討している学生たちから、香港科技大学工学院での学びと研究が実際にどういう感じかに興味があって、是非先輩の経験を聞きたいという依頼がありました。この機会でいろいろとご自身の経験をシェアしていただければ嬉しいです。まずスタートとして、少し自己紹介していただけませんか。

K:はい、執行(しぎょう)と申します。出身は兵庫県神戸市です。神戸大学の国際文化学部を2018年に卒業後、同大学の国際文化学研究科に進学し、2020年に修士号をいただきました。その後、2020年の9月から香港科技大学(入学当初は工学院のコンピューター・サイエンス研究科、現在はAcademy of interdisciplinaryというより学際的な研究に焦点をあてた研究科)で博士課程の学生をしています。2024年の9月から5年目に入っています。

G:なるほど、今は博士課程の最終段階になっていますね。この間、海外の大きな学会で受賞されたことを伺いました。具体的にどういう賞ですか。

K:私が博士課程で行っている研究がコンピューター・サイエンスとメンタルヘルスの複合分野です。新たに提案したVRを使った認知エクササイズに関する論文をマルチメディア分野におけるトップカンファレンス(ACM Multimedia 2024)に投稿したところ、受理されました。オーストラリアのメルボルンで学会が開かれ、論文の発表をした後にHonourable Mention Awardという賞をいただきました(大学の広報ページリンク)。この賞は同学会の審査委員によって選ばれ、Best Paper Awardに並ぶ、優れた研究に送られる賞です。当年の学会では、 投稿された4385件中の1149 件の論文 (26.2%)が受理され、その中でも評価の高かった174件の論文(3.9%)が学会での口頭発表となりました。そのうち最も高い評価を得た論文がBest Paper Award、それに続く7件の論文がHonourable Mention Awardを受賞しました。この学会はマルチメディア分野の様々なトピックに関する研究をカバーしているため、一概に研究の質を評価することはできません。私の場合は、様々な研究がある中で、VRに関する研究の一つとして賞をいただいた形になります。

G:それは素晴らしいですね。おめでとうございます。振り返ると、執行さんは初めにサマーキャンプ、次にインターンシップ、その後博士課程入学ができて、そして現在博士課程の修了に近いところにやってきました。さらに受賞までなさって、今の心境はどうでしょうか。

K:入学以前や当初では今行っている研究をすることになるとは思っておらず、ましてこのような賞をいただくことになるとは全く思っていませんでした。博士課程におけるこれまでの4年半ほどで自分の研究能力が高まり、かなり成長できたなと感じます。

G:香港科技大学と工学院のイメージについては、サマーキャンプ、インターンシップ、博士課程スタート、そして現在、それぞれのステップにおいて実際にどう感じましたか。やはりイメージが変わりましたか。

K:工学院主催で行われたサマーキャンプは、香港科技大学内外の活動を通して、同大学や工学院について理解を深めることを目的としていました。私はその時に初めて香港と同大学へ行ったのですが、工学系の研究に重点をおいた大学で、色々と設備が整っているなという印象を受けました。キャンパスには中国からの留学生だけでなく、インドや東南アジアなど他の国や地域から来たとみられる学生も少なからず見かけたので、国際的に評価が高い大学なのかと思いました。また日本人がほとんどおらず、言葉でのコミュニケーションをとるには英語を話さざるをえないので、英語でのコミュニケーション能力を高めるのにとても良い環境だと思いました。

インターンシップではサマーキャンプでお会いした先生の研究グループに2ヶ月ほど所属し、自分で決めた研究プロジェクトをそこの助教の先生や学生たちと一緒に取り組みました。香港科技大学での研究を体験することができ、実際に使われているオフィスや研究設備・学生寮を利用させていただいたり、ミーティングに参加したりしました。これにより同大学での留学生活がどのようなものか具体的に分かり、やはりここで研究者としてのトレーニングを受けるのも良いなと感じました。

実際に博士課程の学生として入学した当初は、自分がいわゆる理系の出身でないため、授業についていけるのか、研究をやっていけるのか不安がありました。また私が所属している研究グループには中国のトップ大学出身の学生が少なからずいて、彼らと肩を並べてやっていけるのかという懸念もありました。

色々と大変なこともありましたが、現在はそうした不安や懸念はなく、学位取得に向けて研究プロジェクトに取り組んでいます。

G:香港科技大学工学院での学びと研究を経験なさって、自分にとって一番ためになったことは何でしょうか。一方、一番大変なことは何でしょうか。

K:一番ためになったのは、馴染みのある心地いい環境(comfort zone)から未知の、どうなるか予測のつかない環境に身をおいたことだと思います。博士課程の当初は先生やその研究グループの数人とは面識はありましたが、それ以外は知人や友人、また日本語で話せる人が全くいませんでした。慣れない英語を使ってうまく人間関係が作れるか、また大学の授業を受けたり研究プロジェクトをこなしていけるのかなどについて、何の保証もありませんでした。しかし、そうした環境で過ごしていると知らず知らずのうちに自分自身が成長し、色々となんとかなるようになりました。留学のきっかけを与えていただいたKenさんには大変感謝しております。

一方で一番大変だったのは、コンピューター・サイエンスの博士課程プログラムの要件で履修必須であった授業をこなすことですね。私はもともと理系出身ではなかったので、学部生を主に対象とした基礎的な科目(コンピューター・アルゴリズム、オペレーティングシステム、計算論)を取る必要がありました。対象が学部生とはいえ内容は簡単ではなく、英語の分厚い教科書を半期でカバーするほど量も多かったです。評価は主に課題と中間・期末試験でつけられました。最終的な成績は相対評価で決まるため、博士課程の学生は受講している学部生たちのなかでも上位の成績をとらなくてはなりませんでした。私は中でも2つの科目(アルゴリズムとオペレーティング・システム)でこの競争に苦戦しました。いわゆる“不可”(不合格)はとらなかったものの、上位の成績をとれなかったため、その2つの授業を3回受け直しました。しかし結局求められる成績を取れなかったのでコンピューター・サイエンスの博士課程プログラムを続けるのは断念し、指導教官は同じままで、現在の学際的な研究科のプログラムに変更しました。

G:その大変なことに対しては、自分がどのようにして克服しましたか。

K:それらの基礎的な授業は、求められる成績が得られなかった場合は非公式ではありますが、再受講して所定の成績を得ればそれが認められました。入学してから初学期はそのことを知らなかったため、学部生の授業なのに振るわない成績をとったことで博士課程を続けられなくなるのでは?と思い大変落ち込みました。再履修が可能と知ってからはこれにめげずに頑張ろうと思い授業に再度取り組みました。しかし相応の努力にも関わらず3回履修しても求められる成績がとれなかったため、逆にあきらめがつきました。自分にはこの種の分野や授業・試験方法が向いていないと割り切り、現在私が取り組んでいる分野で頑張ろうと思えました。このように自分のことを知り、選択と集中ができたことは今となっては良かったと思います。

G:ちょっとキャンパスライフのことを聞きたいですが、香港科技大学での生活は、神戸大学の頃とはどう違いますか。

K:神戸大学にいた頃は実家から通っていたのですが、香港科技大学に来てからは学生寮・その後キャンパス近くのアパートに住むようになりました。自分で生活スタイルを決めるようになり、食事や運動など生活習慣についてより考えて行動するようになりました。

研究の面では入学してから2年ほどは授業に追われていましたが、その後は研究に集中できるようになりました。自分の研究だけでなく、研究グループが大学や企業などスポンサーから請け負った研究プロジェクトにも関わっています。授業や研究プロジェクトは英語で行うため、英語の能力は入学当初と比べて格段に高まったと思います。

G:香港科技大学のキャンパスライフのなかで、自分が結構楽しんでいるところと、あまり慣れていないなと思うところは、何でしょうか。

K:楽しんでいるところは、生活や研究活動の自由さですかね。私の研究グループでは決められた勤務時間のようなものはないので、自由に一日のスケジュールを立てることができます。健康のため研究のためのデスクワークだけでなく、大学のジムに行って体を動かすこともしています。まだ慣れていないのは広東語ですね。香港に4年以上住んでいますが、英語以外の言語を学ぶ余裕がなかったため、未だに基本的な挨拶や数字だけしか分かりません。もっと広東語ができるようになれば、香港の地元のお店やレストランに入りやすくなり、より香港での生活を楽しめるようになると思います。

G:香港は2019年から様々な困難に直面し、様々な事件がありました。コロナはもちろん大変でしたが、政治面も不安定でしたね。うちのグループに相談した多くの学生は、香港って全かなと心配しているようです。執行さんは2020年入学なので、まだいろんな影響が残っている時期です。入学当時は大丈夫でしたか。

K:当時は日本のメディアでも香港のデモ活動が大きく報道されていて、それを見て「香港で生活して大丈夫なのかな」と不安に感じた方も多かったと思います。私自身も、入学前は多少そうした心配はありました。

ただ、私が入学した2020年の時点では、すでにデモ活動はかなり厳しく取り締まられていて、少なくとも香港科技大学のキャンパス内や日常生活の中で、治安面で不安を感じることはほとんどありませんでした。大学の運営も比較的落ち着いていて、学業や研究に集中できる環境だったという印象です。

一方で、前の年度に入学した学生からは、情勢がもっと不安定だった時期には、大学の判断で中国本土へ一時的に避難する対応が取られたこともあったと聞いています。そういう意味では、入学したタイミングによって状況はかなり違っていたと思います。

G:5年間香港科技大学で過ごしたので、実際に観察したキャンパスの状況はどうでしょうか。

K:5年間香港科技大学で過ごしてきましたが、キャンパス内外を含めて、安全面で困ったことは特にありませんでした。日常生活の中で、危険を強く意識するような出来事に遭遇したこともなく、基本的には安心して研究や生活ができていたという印象です。

コロナの時期は、キャンパスの雰囲気がかなり変わっていました。多くの学生が地元に戻ってオンラインで授業を受けていたこともあり、キャンパスは全体的に人が少なく、少し静かすぎるくらいでした。また、キャンパスに入るたびに専用のアプリでワクチン接種の証明を見せる必要があり、正直なところ少し面倒だと感じていました。

その後、コロナの影響が落ち着いてからは学生も戻ってきて、キャンパスにはまた活気が戻ってきました。学生による課外活動も盛んですし、大学としてもセミナーや学会、ジョブフェア、音楽ライブなど、いろいろなイベントが頻繁に開かれています。

G:2025年になった今、コロナの影響はほぼなくなったと思いますが、政治と国際情勢という面にはまだ不確定な要素があるようですね。執行さんはこれからも香港科技大学に残り研究を継続する予定でしょうか。心配はありませんか。

K:今は同じ研究室でポスドクとして雇ってもらっていて、研究室が進めているプロジェクトに参加しています。雇用期間は1年のため、その後は香港を出て、別の研究グループで新しいプロジェクトをやろうかなと考えています。これは、香港の安全面や将来性が不安だからというわけではありません。5年間過ごしてきて、生活や研究の面で危険を感じたことはほとんどありませんし、今も特に問題があるとは思っていません。

どちらかというと個人的な理由で、別の国や研究室に行って、新しい環境で経験を積んでみたいという気持ちが大きいです。研究者として次のステップに進むタイミングかな、という感じですね。

G:なるほど、よく理解ができました。ちなみに、香港の街には結構観光に行っていますか。香港はどう思いますか。

K:今はもう観光しにはいかないですね。家が香港の中の東のほうにあり、観光地として有名な中心地にはバスや地下鉄に乗って1時間くらいかかります。それもあり週末なども家の近くにいることが多いです。

香港は冬の気候が穏やかで私の地元の神戸より比較的温かいので、非常に過ごしやすく気に入っています。

政治的には2019年頃に日本でも現地のデモの様子が報道されていましたが、現在ではもう見られません。香港で留学生として生活する分には、特に政治的な問題を感じたことはありません。

G:Technologyといえば、香港の近隣にある中国の深圳は中国版のシリコンバレーと呼ばれています。とくにIT分野ですが、Huawei、Tencent、DJIなどの大手があります。深圳には見学または観光に行きましたか。

K:深圳には香港科技大学でできた日本人の友達と観光で2回、大学の広州キャンパスで行われた学会に参加するために一回行ったことがあります。

G:実際に中国に行ってどう感じましたか。香港とは違う雰囲気でしょうか。

K:初めて行った際には、香港と違い、深センは高いビルが立ち並んでいるものの、全体的により広々している印象を受けました。言葉でうまく表現できませんが、街や人々の雰囲気も違い、ちょっとした異世界に迷い込んだような感じでした。深センは中国の中でも経済特区としてここ30年で発展し、様々な新しい技術が生まれています。あるショッピングモールでは様々な種類のコンピューターの部品が何フロアにも渡って大量にを売られているのを見て、その勢いを感じました。

大学の広州キャンパスは電車の駅から車で1時間ほど離れた郊外にあり、広大な土地に新しいスタイリッシュな建物がいくつも並んでいました。主に工学と芸術の融合分野に焦点を当てた研究科がありますが、創作のためのアトリエや電子機器など、最新の設備が揃っているようでした。ここで学んでいるのはほとんど中国本土から来ている学生ですが、この分野に興味のある方は、こちらの研究科も検討してみても良いかもしれません。

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メンバーには香港科技大学工学院留学中の日本人学生、留学を修了した日本人OB/OGがいます。さらに、日本の国立大学で留学サポートを担当している香港出身の先輩がいます。

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