香港と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?テーブルに所狭しと並べられた美味しそうな点心や飲茶,アクション映画で有名なジャッキーチェンの出身地,英語が公用語の国際金融都市… 旅行好きの人は日本から気軽に行ける観光地というイメージを持っているかもしれません.

一方で,香港を留学先として思い浮かべる人は多くないでしょう.実は香港にはアジアでトップの大学がいくつかあり,そのうち2校が世界大学ランキング(Times Higher Education World University Rankings 2019)で上位50位に入っています(香港大学36位,香港科技大学41位,東大42位).この記事では香港科技大学のインターンシップに参加した体験を紹介していきたいと思います.

自分について

神戸大学国際文化学研究科の情報コミュニケーションコースに所属している修士課程(インターン参加当時1年)の学生です.このコースでは主に情報通信技術(ICT)を利用し,より効果的な人と人とのコミュニケーション方法について研究します.ハードウェアやソフトウェアなどの情報技術そのものを発展させるような研究をするのではなく,情報技術の基礎研究によって生み出されたアプリケーションを組み合わせたり,既存の技術の新しい使い方を考案したりします.そうすることでさらに便利な情報システムの開発やより良いコミュニケーションの方法を提案したりすることを目指しています.

大学に入ってからプログラミングの勉強を始め,学部時代にはITの国家資格を取得するなどして知識を身につけていきました.学部4年次からはレシピデータを活用し、より便利なレシピ検索システムの研究開発をしていました。大量のデータを高度に利用することで新しい価値を生み出したり新たな発見をすることが面白いと感じ, データサイエンス系の研究をしたいと思うようになりました.

参加のきっかけ

インターン参加のきっかけは,学部4年次の夏に参加した香港科技大のサマーキャンプでした.それまでは留学や海外の大学に行くことはあまり考えていませんでした.同じ研究科の先輩から科技大がサマーキャンプを毎年やっていることを教えていただき,金銭面でのサポートがすごく充実していると知りました(航空券代を半額支給,キャンパス内の寮に泊まれる,生活費が支給されるなど).「1週間のサマーキャンプなのにそこまで手厚く支援してくれるなんてすごい大学に違いない」と思い,興味を持ったので参加することにしました.サマーキャンプの体験記はこちら(リンク)に書きました.1週間でセミナーやキャンパスツアー,研究所への訪問など様々な活動を通して科技大のことをよく知ることができました.想像通り大学の運営・研究資金が充実しているようで,大きな研究所や学生寮,運動施設など大学の設備が非常に整っていました.そのような環境で科技大の先生や学生たちと一緒に研究してみたいと思い.インターンに申し込みました.

インターンシップ

インターンシップは興味のある先生の研究室に所属し,実際に科技大での研究生活を体験するプログラムです.対象は香港を除く海外の大学(もちろん日本の大学もOK)に在籍している修士課程,または学部4年の学生です.科技大は工学分野の研究に強いので,工学系の学生が望ましいでしょう.期間は2~6ヶ月の間で選べ,時期は先生が受け入れ可能な時であれはいつでも大丈夫なようです.毎月返済しなくて良い奨学金が支給されます.

インターンの申し込み

インターンの申し込みはWebで行い,大学側で受け入れ可能か審査してもらいます.受け入れてもらえる場合,「インターンで科技大に来てください」という正式なオファーをもらえるので,その後に科技大でインターンをするために必要な手続きを色々とすることになります.

申し込みの前に,まず興味がある研究科と自分を受け持って欲しい先生,滞在期間を決めます.科技大には7つの研究科があり(リンクhttps://www.ust.hk/academics/schools-programs-office/),中でも工学研究科の研究レベルは世界的に見ても高いです(リンクhttps://www.cse.ust.hk/News/QSWUR2015/).工学研究科には化学/生物,市民工学,機械工学など6つの分野がありますが,私が選んだ分野はコンピュータ・サイエンスでした.科技大のWebサイトには研究科ごとに先生を紹介しているサイト(リンク https://facultyprofiles.ust.hk)があり,自分が興味のある先生を探すことができます.私が受け持ちをお願いしたのはデータビジュアリゼーションを専門に研究指導している先生でした.その先生とはサマーキャンプに参加した時に個人的にお会いしていて,インターンでまた科技大に来る時にはこの研究室に入ろうと思っていました.サマーキャンプの時に先生とのコネクションを作っておくと,インターンで受け入れてもらえるか聞きやすいので,申し込みをスムーズにすることができます.先生の都合を聞き,滞在期間は2月と3月の2ヶ月間にして申し込みました.ちなみにこの申し込みは基本的にインターンを始める月の3ヶ月前に済ませる必要があります.

2週間ほどで審査に通ったという通知が来て,正式にインターンに来て良いというオファーをもらえました.手続きとしてはパスポートや大学の在籍証明書,旅行保険のレシート等をWebでアップロードしたり,学生ビザの申請書や銀行口座の残高証明書を大学に郵送したりしました.インターンに行く1ヶ月前くらいには手続きが全て終わり,準備が整いました.

インターンの費用

インターンでかかる費用としていくつかあります.大学のキャンパス内にある寮に住むことができる場合,寮費が2ヶ月で約13万5000円ほど.香港では総じて家賃が高いためこれくらいするようです.基本的にインターン生のために寮の部屋がいくつか用意されているようですが,部屋数には限りがあるので早めに申し込みをしたほうがいいようです.Research project courseの費用が約2万4000円.これはインターン中の研究や授業の費用です.大学指定で加入義務がある旅行保険が2ヶ月で約1万円.その他Visaの手続きをしてもらう費用や書類を大学に送る郵送費などがかかります.まとめると,2ヶ月間のインターンシップの場合,申し込みが済むまでに約16万円ほどの費用が必要です.この他に香港への航空券代や現地での食費,生活費がかかります.しかし素晴らしいことに,大学からこれらすべてをまかなえる額の奨学金がもらえます.これは返済しなくて良い奨学金なので,企業でインターンした時にもらえる給料と同じようなものです.私の場合2ヶ月間のインターンで30万円ほどいただきました.科技大でインターンをすると実質的に自分が払う費用はなく,むしろ黒字になるほどお金をもらうことができるのです.それだけ留学生(特に日本人学生)に来て欲しいということらしいです.

香港・香港科技大へ行く

日本から香港へは直行便が飛んでおり,関空からは片道4時間ほどで香港西部にある香港国際空港に着きます.LCCを利用する場合,航空券は往復4万円ほどで手に入ります.科技大は空港とは反対側,香港東部にあります.空港についたらまず地下鉄に1時間ほど乗り,大学の最寄りの駅まで行きます.そこからミニバスで10分ほど行くと科技大に到着します.香港ではチャージ式のICカード「オクトパスカード(八達通)」が広く使われていて,地下鉄やバス,スーパーやコンビニなど香港のあらゆるところで支払いに利用することができます.空港そばの地下鉄の駅に着いたらまずオクトパスカードを買い,お金をチャージしておくと移動がかなり便利になります.

インターンでの研究生活

インターンでは科技大の学生として研究室に配属されます.私が入った研究室の学生は全部で20人ほどいて,香港の学生はもちろん,中国や韓国,インドからの留学生もけっこういました.先生や研究室の学生たちはトップカンファレンスで受賞していて,メディアでも度々取り上げられているようです.私が会った学生たちは英語が母語でなくても英語を流暢に話していました.またトップカンファレンスに論文を出す前提で研究をしていたので,優秀な学生ばかりだと感じました.

インターンで取り組むことは研究室ごとに異なると思いますが,私の場合はそれまでにやっていた研究の続きをさせてもらえることになりました.普段は研究室や図書館で一人で研究に取り組み,週に1,2回の頻度で研究室のメンバーとミーティングをして議論するという感じです.

科技大のキャンパス

大抵は図書館で過ごしていたのですが.科技大の図書館は設備が整っていてかなり快適でした.地下階も含めて5階建てで,内装が綺麗です.蔵書だけでなく,オンラインで読める電子書籍もかなり充実していて最新の論文や記事を読むことができました.WindowsとMacのコンピュータ(メモリが16G!)が50台ほどあり,3Dプリンターまで用意されていて自由に使えるようでした.静かな閲覧室や自習があるので集中して研究に取り組むことができます.キャンパス自体が海のすぐそばに建っているので,テラスからの眺めはかなり良いです.

私が住んでいた寮の部屋は7階にある一人部屋で,広さは十分でした.ベッド,クーラー,冷蔵庫,クローゼットなどが備え付けられていました.寮への出入りは学生証で認証し,夜には管理人さんが入り口でチェックしてくれるのでセキュリティ面で心配はありませんでした.各階にトイレとシャワールーム,ウォータークーラーや休憩室があり,快適に過ごすことができます.

大学のキャンパスにはスーパーや銀行,病院など生活に必要な施設はたいてい揃っています.洗濯・乾燥は寮の近くにあるコインランドリーを自由に利用することができます.学生証にお金をチャージして動かすようになっていていました.運動施設も充実していて,トラックフィールドや人工芝のフィールド,トレーニングルームや25mの室内プールまであります.インターンシップで長期間大学に滞在する場合,生活がほぼキャンパス内でできるため運動不足になりがちです.施設を利用して運動するとリフレッシュでき,研究がはかどるでしょう.トレーニングウェアを持っていくことをおすすめします.

香港観光

気分転換したい時には観光に出かけました.大学のキャンパスは香港の東端にあるので,繁華街や中心街がある香港中部へ行くためにはバスと電車でだいたいの1時間くらいかかります.

大学の近くにも街があり,ショッピングモールや公園などがあるので散策を楽しめます.

おすすめは大学からバスで10分ほどで行ける清水湾公園です.綺麗な海と砂浜が広がっていて,波の音が心地良いまさに南国のビーチでした.

生活のポイント

香港の公用語は英語と広東語です.空港や銀行,大学の事務などでは英語が通じます.香港では幼稚園から英語教育が始まるそうで,科技大の学生はネイティブ並みに流暢に話せていました.ただし若くない地元の人は英語が得意ではなさそうで,大学内でも寮の管理人や食堂のスタッフの人とは英語でコミュニケーションをとることはできません.中国の標準語(普通话)は大抵の香港の人に通じるので,多少話せると生活がしやすくなります.

香港で主に使える通貨は香港ドルで,レートは1香港ドル当たり約14円です.オクトパスカードにチャージしておくと色んな場面で使えるのでとても便利です.チャージできる場所は大学の食堂のレジやコンビニ,駅構内などがあります.機械でチャージする場合は高額紙幣が使えないことが多いので,100,または50香港ドル札にくずしておくと便利です.

深セン

中国のシリコンバレーと呼ばれる深センにも行ってみました.キャンパスからバスと電車で1時間くらいで着き,電気街や本屋などを散策しました.香港と違って高い建物が密集しておらず,ゆったりした雰囲気を感じました.

インターンを終えて

2ヶ月間のインターンを終えて,まず収穫として感じたことは外国語を話す抵抗がかなり少なくなったことです.インターンに行くまでにはほぼ海外に言ったことがなかったので生活の中で英語を使う機会が全くと言っていいほどなく,英語を話すことに慣れていませんでした.簡単なことでもどう表現すればいいか分からなかったため, 当初は言いたいことを伝えることができず悔しい思いをしていました.それが2ヶ月の間に研究室の人たちと話したり,生活する上で英語を使っていくうちにどんなシチュエーションでどんなことが言えないのかが分かり,勉強することで言いたいことをある程度スッと言えるようになりました.また科技大には中国や韓国,インドなど色んな国からの留学生が多く,その国ごとにアクセントやイントネーションなど英語の話し方が違っていることを身をもって知ることができました.英語を完璧に話す必要はなく,まずは自分が伝えたいことをはっきりとさせて言える範囲でどんどん話していくことが大事だと思えるようになりました.

研究室の人たちとの繋がりができたのも良かったです.インターン中にやっていた研究をもとに共著で論文を書くという話もでき,今後の研究にかなりのプラスになりそうです.香港出身の学生と友達になれ,少し広東語を教えてもらいました.

最大の収穫は科技大の博士課程に入るチャンスができたことです.科技大の修士・博士課程に入るためには書類選考や面接などをクリアする必要がありますが,先生が受け入れると言っているかどうかも合否判定の大きなポイントとなっているようです.私の場合インターン中の研究成果が認められ,先生から修士課程を修了後,博士課程でうちの研究室に来ていいと言ってもらえました.今のところ英語の試験(TOEFLまたはIELTS)で最低限求められている点数さえ取れればほぼ入学できるようなので,進路を考える際の大きな選択肢となります.

さいごに

科技大でのインターン体験記,いかがだったでしょうか? 留学を考えている,考えていなかったけど少し興味はあったという人の参考になれば幸いです.サマーキャンプやインターンシップに関する相談は随時受け付けています.お気軽に下記連絡先へお問い合わせください.

また科技大や留学後のキャリアパスに関するセミナー,交流会を神戸大学と京都大学で開いています.ご興味のある方はHPにあるFacebook, Twitter(リンク)もぜひチェックしてください.

執行 健人